忠臣蔵

8 03 2010

自分は今まで「忠臣蔵」を読んだこともTVで見たこともありませんでした。なので、吉良上野介や浅野内匠頭、大石内蔵助といった主要人物を知っているのみで、時代背景や討ち入りまでのいきさつ等はほとんど知りませんでした。で、「日本人なら一度は見るべし」と思い、図書館で見つけた森村誠一の「忠臣蔵」を手に取りました。前書きを読むと、他の著書はほとんど「浅野側」のみの記載ばかりで、「吉良側」からの立場では描かれていないとのこと。で、森村氏は「吉良側」の視点も取り入れて書くことで、両陣営の人間の心情を描いたそうです。何となく浅野側が正義、吉良側が悪、という印象があったので、この描写方法に期待大です。

野犬に襲われている娘を元浅野家の浪人が助ける場面からスタート。そう、忠臣蔵の舞台は5代綱吉の「お犬様」時代だったのをここで知りました。そして松の廊下事件は浅野側が招いたともいえたのですね。接待役になった浅野が吉良に教えを請う立場であり、吉良が賄賂に目がないのを知りながら、挨拶の際に饅頭だけしか渡さなかったことが致命的だったでしょう。吉良上野介としては馬鹿にされたとして憤慨してもおかしくないかと(他の者達はしっかり持ってきているのに)。その辺りを柔軟に対応できなかった浅野側が不幸を招いてしまいましたね。さらに赤穂塩を巡って今をときめく柳沢吉保と対立していたのも浅野側の不幸でしたね。喧嘩両成敗とされる中、浅野側のみ処罰された片手落ちの判決を促したのも柳沢でしたし。

この本を読んで良かったなと思ったのは、皆人間臭かったことです。大石内蔵助はじめ、浅野の遺臣は英雄視されることなく、むしろグレーな部分も描かれていたのが現実味があって良かったです。討ち入りの場面では、浅野側よりもむしろ吉良側主体に書かれていました。武装において圧倒的な劣勢の中、主君を守ろうと奮闘する剣士達は格好良かったです。結局ほとんどが大石率いる赤穂浪士相手に討ち死にしてしまいますが、何とか生き残った上野介の長男が一番可愛そうだった気がします。吉良を悪とする世論もあり、配流された先でも幽閉同然の扱いで最後は世間に忘れられながら死んでしまいます。大名にその身を預けられ幕府の沙汰を待つ赤穂浪士が寛大な扱いを受けていたことを思うと全くの対照的でした。これも片手落ちの処遇ではとも思ってしまいました。

切腹の場に行く場面も印象的でした。部屋から一人ひとり出て行くのを「トイレに行ったような」と書かれていたのにはリアルに寂しさを感じました。「最後に呼ばれるのは嫌だ」という気持ちも十分理解できました。他、6代将軍家宣や新井白石、大奥との関わり合いも描いていたのが良かったです。全盛期を迎えた柳沢が保身に走りながらも衰退していく様には「時代」を感じました。一人の将軍に対して絶対的な信用を勝ち得た取り巻きが大躍進しますが、次の将軍になるとその地位から陥落してしまう・・・。家康の本多正純、秀忠の土井利勝もそうでしたね。そして綱吉の柳沢吉保、家宣の新井白石。白石は綱吉時代に生まれた最悪の法令「生類憐れみの令」を廃止したりして脚光を浴びますが、家宣が急死したことにより、彼の地位もわずか数年で落ちていってしまいます。その辺りまでこの本で描かれていたので、時代背景も結構理解できました。日本に古くから数多ある「忠臣蔵」の中で2007年に刊行された森村氏の「忠臣蔵」。かなり充実した内容でしたので、他の著者が書いた「忠臣蔵」を読むことが出来るかとても不安です。

大石内蔵助と上杉家の家老色部との知恵比べも面白かったです。


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